広東料理の華は、まず焼味とスープである。
7 月に開店した「鴻禧(こうき)」の料理長トミーさんは、焼味師ではないが、見事なチャーシューを出してくれた。
まず芯まで熱々なのがいい。
切った厚さがいい。
歯が肉にずぶずぶと吸い込まれていく快感があってから、肉汁が溢れ出す。
チャーシューは普通、焼ダレが添えられることが多いが、麦芽糖を使った蜜汁が添えられているのが、いい。
濃密な汁の甘みに豚の甘みが加わって、心が溶けてしまうのである。
次に「脆皮鶏」である。
熱々の油をかけ回しながら、皮はパリパリに仕上げていく料理である。
広州原産の龍崗鶏(ロンコンガイ)が最も美味しいとされ、何回かいただいたことがあるが、この鶏も引けを取らない。
切られたらまず一番美味しい背中の部位からかぶりつく。
パリッと音を立てて皮は弾け、しっとりとした肉に歯が包まれると、淡い甘さを持った滋味が、ゆっくりと舌の上を流れていく。
たまりません。
二回もお代わりをしてしまいました。
そしてスープである。
冬瓜とスッポンのスープである。
東京にも素晴らしいスープを出す店が多くある。
だがここのは香港そのものである。
香港の金持ちが、家の料理人に毎日作らせている、そんな気品がある。
うま味は深いが濃すぎない。
塩気は淡く、味が澄んでいるが、日本料理的淡さではない、ダイナミズムが味の奥に潜んでいる。
日本にある一流の中国料理店でいただいてきたが、これはトミーさんしか出せない感覚であり、唯一無二の風味だろう。
これこそ、香港のアイランドシャングリラの夏宮から福臨門銀座店→福臨門各店→ウェスティンホテル龍天門→サウスラボ南方で活躍した、トミーさんの面目躍如である。